ジョブズCEOが今回のWWDCで提供したストーリーは3つの章に分かれていたが、そのテーマは一貫していた。Apple社は、2010年代のオペレーティング・システム(OS)をめぐる大きな戦いにおいて、自社の地位を確保しようとしているのだ。
WWDCにおける第一章は、Mac OS Xの最新バージョン『Lion』だ。この章の主なポイントは、マルチタッチ機能が増え、App Storeも内蔵されるなど、Mac OSがiOSの多くを採用したというものだ。
第二章はiOS 5だ。今回新しく発表された各機能は、これまではパソコンだけでしか可能でなかった機能を、『iPad』『iPhone』『iPod touch』でも可能にするものだ。たとえばiOS 5を使えば、写真の編集、複雑なメール文書の作成などが可能になる。
つまり、MacはiPadに進化し、iPadのほうは、かつてはMacやPC専用だった機能を実行できるように進化したのだ。
この変化において最も顕著な点は、Apple社がiOS搭載機器をパソコンから「解放」したことだ。設定やアップデートが、パソコンにつながなくても可能になったのだ。このことは、聴衆の開発者たちから盛大な拍手喝采で迎えられた。かつてわたしは、Apple社はパソコンの主な機能を「iPadと同期させること」にしようとしていると冗談を書いたことがあるが、いまやそれさえも超えたことになる。ジョブズCEOはMacを、「もうひとつのモバイル機器に降格させる」とさえ言った。まるで経営の神様ジャック・ウェルチを中間マネージャーに降格するかのようだ。
さて、第三章は『iCloud』だ。ジョブズCEOによると、iCloudは、コンピューターをローカルファイル等から解放するための長い探求が終わったことを示すものだという。
Apple社の戦略は、競合相手と比べてどうなのだろうか。米Google社のクラウドは、Apple社のクラウドよりも徹底している。Apple社はクラウドを自社サービスのハブと見なしているが、Google社の『Chrome OS』では、クラウドをコンピューター自体として扱っている。
米国では6月15日から発売される『Chromebooks』(日本語版記事)では、基本的に超高速ブラウザが実行され、ウェブベースのアプリケーションやサービスによってあらゆるニーズを満たせると想定されている(ただし、わたしが以前Chrome OSをテストしたときに書いたように、Chrome OSは、実はまだほとんど実現されていない高速インフラを想定して設計されている。)
これと比較すると、Apple社のクラウドは控えめだ。ストレージと同期を対象にしており、ストリーミングやリアルタイム、実際のマシンの拡張は対象外だ。Apple社の場合、動作はウェブ上ではなく、アプリケーション内で行われる。
一方で、Google社の計画を複雑にしているのが、もうひとつのOSであるモバイル向け『Android』の存在だ。Androidは、クライアント・アプリケーションを実行するという点でiOSに似ているが、これによって、ウェブ中心というGoogle社の方針との食い違いが生まれているのだ。5月に開催された『Google I/O開発者会議』でも、これら2つのシステム間の不一致は明確だった。イベントの両日に、どちらかのシステムに関する基調講演があり、その後で行われた記者会見では、これらのシステムが競合しない理由について、各チームのリーダーが説得力のない説明を試みていた。
一方、米Microsoft社はどうだろうか。5月30日に開催された技術カンファレンス『D9』では、『Windows』担当プレジデントのスティーブン・シノフスキーが、『Windows 8』の姿を少しだけ見せてくれた。『Mac OS』がインターフェースをiPhoneやiPadから借用しているように、Windows 8では、称賛に値する(ただし、商業的にはまだ証明されていない)『Windows Phone 7』OSの派手なインターフェースが採用されており、過去と大胆に決別したかのように見える。しかし、シノフスキー氏は同時に、このインターフェースは旧スタイルのWindowsのフルバージョンの上に置かれるとも説明した。(Windows 8タブレットの起動時間はどのくらいになるのだろう?) 「ポストPC」の概念は、Microsoft社ではいまだにタブーになっているようだ。
しかし、Microsoft社が認めようと認めまいと、われわれは数年前からポストPC時代に入っている。われわれの問題は、これらの新しいポストPCの機器が、置き換えられるべきPCと、あらゆる点で同じ能力を持つほど進化できていないことにある。Apple社はWWDCで、そのギャップを埋める方向に近づいた。Apple社が持つ信じがたいほどの推進力を考えれば、Appleユーザーたちが後に続くと考えるべきだろう。
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