Googleは、同社内部のプラットホーム戦争の、正念場に達しつつある。AndroidとChrome OSの定義と性格分けと将来像を明確にすべき時期が、迫っているのだ。おそらく内部的には固まっているし、ある種の中期計画のようなものもあるのだろうが、しかし遅かれ早かれ世の中にそれを知らしめなければならない。そして今日(米国時間5/10)のGoogle I/Oには、重要なヒントがあったようだ。
ヒントとは、今日の2つの発表だ: ひとつはGoogleとしては予想どおりのMusic、もう一つはOpen Accessory Toolkitというサプライズだ。GoogleはOSの二股戦略を、基本的に、次のように性格づけたと思われる: Chrome OSはあらゆるところに、そして、Androidはなんにでも。
人びとがAndroidを使ってファンやLEDなど…多様な外部機器…をコントロールできるようにする。そのどこが重要なのか? GoogleがAndroidを、携帯電話のOSではなく、汎用の小規模OS(対象機器は最大でもタブレットぐらい)と位置づけたことが、重要なのだ。今後のAndroidは、細かな改良は進むにせよ、今のHoneycombと大きくは変わらないだろう。最大がタブレットなら、最小は?…なんにでもだ。電子レンジ、車、メディアプレーヤー、ロボット、時計、玩具、ツール、顕微鏡、レントゲン装置、セットトップボックス、カメラ、…例は限りなく挙げられる。とにかくCPUがあってインタフェイスがあるものならなんでもAndroidでコントロールできる、とGoogleは考えている。そうそう、それに、Google語で言うなら、それらの機器は互いにお話しできる。キッチンの冷蔵庫からPandoraをコントロールしたいかな? ぼくはたまたましたくないが、それ的なことをしたい人は何億もいるだろう。
Androidはあと一回フォークして、大型で標準のHoneycombに対し、もっと相当小型のバージョンを作ってもよい。依存性を減らし、レガシーでベーシックな(BASICでもよい)コードを磨いて再利用し、苦労して削らなくても4MBのRAMと25MHzのプロセッサで十分動く。それはモバイルで急速に大きく普及したように、組み込みや不可視のコンピューティングに短期間で大々的に浸透するだろう。ドキュメンテーションが整備されていて、多用途、しかも安いからだ(基本的には無料だが製品に合わせるための調製は必要)。しかも、CPUをはじめ基本部品は、そこらの市販標準品が十分に使えるから、仕事の着手も早い。
今回発表された小さなアクセサリテストベッドにより、Googleは多種多様な世界に足を踏み込むことができる。人気のハッキングパートナーArduinoを味方につければ、健全なプラットホームに加えて健全なコミュニティを手に入れる。Rubinは、コミュニティに頼るなと言ったかもしれないが、最後の1マイルのためにコミュニティが必要なら、それもかまわない。しかもコミュニティは、正しいツールさえあれば、すばらしいものを作り出すことがある。Kinectとそのコミュニティが、好例だ。
一方、Chrome OSは近く安定版が出るようだ。でもそれは、Android 1.0が安定版だったのと同じような意味であり、クラッシュはしなくても、磨き上げにあと1〜2年はかかるだろう。その1年ないし2年に何が起きるか? Googleは、そのころ8000万から1億のタブレットが現役で使われている、と予想する。OSは、iOS、webOS、Android、Chrome OS、今後発表されるOSなどさまざまだが、すべてに共通しているものは、HTML5対応の強力なブラウザだ。
ブラウザさえあれば何でもできる、と悟った人なら、Chrome OS製品を使えばよい。しかも、ほかのタブレットを買った人も、Googleのサービスを大量に利用する。Chrome OS云々ではなく、業界が欲しいのは、低価格製品に使える安定性の良い、あまり自己主張をしないOSだ。さらに、エンドユーザにとっては、Chrome OSを使うこととChromeブラウザを使うことの区別はほとんどない。何を使っても、調べごとなどほとんどのコンピューティングが、ブラウザ内で行われるからだ。自分の音楽を聴くのも、ムービーをレンタルするのも、やはりブラウザ内だ。写真も、メールも。下の図で、矢印の数を増やすのはとても簡単だ:
このようなエコシステムは今の消費者にとっては先進的すぎるから、Googleはデベロッパ向けのI/Oを発表の場に選んだ。それは、Los Angeles GalaやKe$haなどをゲストに招く、派手な立ち上げイベントではない。Googleはただ、将来を見据えている。「アプリケーション国」から「ブラウザ国」に移行する道筋を。
少なくとも、Open Accessory Toolkiの発表の席で、Arduinoのボード(この記事の最初の写真)について話を聞いたかぎりでは、見えてくるのは以上のようなビジョンだ。しかもそれは、Appleの両目を突く戦略としてきわめて有効だ。モバイルとアプリに強くても(無敵で最強だが!)、そのほかの世界…クラウドなど…に関して弱いAppleは、攻めやすいともいえる。まず、Appleが参入できない領域(ハッカー的コンピューティングと組み込みコンピューティング)で勝利し、次にAppleが売るすべてのユニットを、Googleのユニットで置換していく。このハンニバルのような挟撃作戦は、Appleのサービスと製品群の脇腹を突く。しかもAndroidの成長は堅調に続くから、モバイルの中央最前線は安泰だ。
ただし問題は、消費者への売り方。それには時間がかかるし、元々Googleはマーケティングの名手ではない。敵たちは、そこを見逃さないだろう。Chrome OSはまだ、Googleが願ったような普遍的なプラットホームではないが、Androidは1年以内にハイエンドとローエンドの両方向で地位を確立するだろう。タブレット戦争が激化し、クラウドサービスはコンピューティングの主流に近づく。iPhone 5とNexus X(など)とNFCと、そのほかの予想もできない何百もの技術〜製品〜イベントが、その同時期に出現するはずだ。
その1年に起きる多くのクレージーなものごとによっては、この突飛な記事さえも、無に帰してしまうことすらありえるだろう。