スマートフォン向けOS(基本ソフト)「アンドロイド」で携帯電話市場を席巻している米グーグルが、米マイクロソフトが約9割のシェアを握るパソコン向けOSの市場にも殴り込みをかけた。
同社が開発した無償OSの「クロームOS」を搭載するノートPC「クロームブック」が6月15日に欧米7カ国で発売される。発売元は韓国サムスン電子と台湾・宏碁(エイサー)である。
家電量販店などで一般向けに349〜499ドルで販売されるほか、グーグルが企業や教育機関向けにリースプランも用意する。リース料は企業向けが1台につき月額28ドル、教育機関向けは同20ドルという。
クロームブックは従来のPCにないいくつかの特徴を持つ。
まず、動作が軽快なことだ。電源を入れてから8秒で起動し、無線LAN(構内情報通信網)や3G(第3世代)通信の機能ですぐにインターネットにアクセスすることが可能。その秘密は、クロームOSがPC側のアプリケーションソフトとしてブラウザーしか搭載していないことにある。搭載するアプリが少ない分、早く動くのだ。
また、紛失や盗難でデータが漏洩する危険性も少ない。
クロームOSはブラウザーを使ってネット経由でアプリを利用する「クラウドコンピューティング」専用のOSとして設計されている。文書ファイルなどのデータはいずれも、グーグルが提供するグループウエア「Google Apps(グーグルアップス)」をはじめ、クラウド(サーバー)上のアプリで作成して保存する。端末側にデータを置かない分、安全性は高いというわけだ。
普及するかは未知数
「ネット回線は高速大容量化し、アプリもどんどんウェブ化している。クロームブックはクラウド専用のネット端末として、従来のPCとは違う新たな市場を開拓できると見ている」。クロームOSの開発に携わるグーグルの及川卓也シニアエンジニアリングマネージャーはこう自信を見せる。
ただ、業界では「実際に市場に受け入れられるかは未知数」という声も少なくない。
不安材料の1つは、まず過去に他社の似たような概念のシステムが、普及に至っていないことだ。
クロームOSのように端末がソフトやデータを持たず、サーバーで管理するシステムを「シンクライアント」と呼ぶ。マイクロソフトや米IBM、米オラクルなども過去にシンクライアントの製品を発売しているが、一部企業や特定機関にしか使われていないのが現状だ。
2つ目の懸念は価格の問題。クロームブックの300〜500ドルという価格帯は、「ウィンドウズ7」搭載PCと比較しても、飛び抜けて安いわけではない。
調査会社ガートナージャパンの蒔田佳苗・主席アナリストは「この価格帯には、ネットブックに加えて低価格の大型ノートPCやタブレットPCも割り込んできている。よほどの魅力がなければ、ユーザーの購入動機を生み出すのは難しい」と指摘する。
PC各社もクロームOSの実力を測りかねているようだ。5月下旬の現時点でサムスンとエイサー以外にクロームブックを発表する動きは見られず、NECや富士通、東芝といった国内大手も静観の姿勢を見せている。「搭載PCの製品化は検討しているが、具体的なことは何も決まっていない」(東芝広報)。
とはいえ、これまでIT(情報技術)業界を席巻してきたグーグルが自社OSの普及に乗り出してきたインパクトは大きい。「第2のアンドロイド」として広く使われるようになるとすれば、クロームOSの登場は、IT業界の勢力図を塗り替える号砲となる。
0 件のコメント:
コメントを投稿