iPhoneは、「Gmail」や「カレンダー」など、クラウドに預けた個人のデータを引き出す最適なモバイル端末としてビジネスマンに受け入れられた。この先、アンドロイドを使ってデザイン性に優れ、使い勝手のよいユーザーインターフェースを作り上げた端末が出てくれば、データはクラウドに預けたままで、iPhoneからアンドロイドに乗り換えるユーザも出てくるだろう。
ユーザーにとって最も重要で、毎日携帯しなくてはいけないアプリは何か。それは、これまでに蓄積してきた膨大なメールやスケジュール、連絡先などの「個人データ」だ。グーグルは使いやすいWebサービスを用意して世界中から個人データを集め、クラウドに置いた。彼らは次のステップとして、データを引き出しやすい端末をアンドロイドによって普及させようとしている。
アップルは「使いやすい端末」を普及させられたが、最強のアプリともいえる「個人データ」をうまく蓄積できているとは言えない。iTunesで全世界で2億2500万もの個人のクレジットカード口座番号を把握していても、メールやスケジュール、連絡先ではグーグルに及ばない。
これまでアップルは、グーグルが得意とするクラウド分野を果敢に攻めてきた。この先もモバイルで勝ち続けるには、「いかにユーザーが必要とするデータを囲い込むか」が重要であり、クラウドへの展開は避けて通れない選択だったのだ。
■iPhoneから使える独自SMSを搭載
iOS5には200以上の新機能が追加されているという。基調講演ではそのうちの10個が紹介された。
そのなかでも特に印象に残ったのが、「iMessage」「Notification Center」「Twitter」「Reminders」だ。
世界の携帯電話会社が眉をひそめそうなのが、iMessageだろう。iOS5端末同士で簡単にテキストや写真のメールをチャットのように楽しめる機能で、ユーザーからはSMS(ショートメッセージングサービス)感覚で使える。iOSを搭載した端末は世界で2億台が普及しており、海外ではiPhoneは1つの国でも複数の携帯電話会社が展開している。携帯電話会社のSMSを使ってメッセージを送ると有料となるが、iMessageなら無料だ。アップルのビデオ通話サービス「Facetime」のテキストメッセージ版といえるもので、iMessageが普及すれば、有料SMSを提供してきた携帯電話会社は収益源を失いかねない。
日本ではiPhoneを扱うのがソフトバンクモバイルだけで、同社内の端末同士でSMSを無料で使えるため、iMessageを使うメリットは少ないだろう。無線LANにしか対応していないiPadユーザーと連絡を取るときに使うといった利点しかないかもしれない。
■通知機能もツイッター連携も進化
これまでのiOSは不在着信やメール着信件数などの通知をそれぞれのアプリで表示していたため、あまり見栄えがよいとはいえなかった。アプリを使っているときに別アプリが受けた通知があって邪魔に感じることもあったほどだ。
iOS5が搭載したNotification Centerは、それらの通知情報を一元的に管理して、見やすくできるように進化させた。ほかのアプリを使っているときは画面上部に通知が表示されるようになり、作業を中断しなくてもよいように工夫された。
「アップルらしい進化」と言いたいところだが、通知画面を開くときに画面上部から下にドラッグする動きはアンドロイドに近い気がする。
ミニブログの「Twitter(ツイッター)」との連携も強化した。専用のクライアントアプリを使わなくても、写真や地図、Webページなどを見ているときに簡単につぶやきができて、友人と共有できる。
アドレス帳にツイッターにある友人の顔写真を取り込めるようにもなっている。OSレベルでSNSとの連携を強化している点は、マイクロソフトのOS「Windows Phone 7」の考え方に近い。
Remindersは、様々な用件をメモしておくことで用件を思い出させてくれる機能だ。日時だけでなく場所を指定しておくと、位置情報を基に、その場に行ったときにすべき用件を知らせてくれるといった設定も可能だ。
このコンセプトは、NTTドコモが提供するサービス「iコンシェル」に似ているかもしれない。
■他社の「いいとこ取り」で穴を埋める
これまではアップルが作り上げたスマートフォンにおける作法や哲学を、他のプラットフォームやメーカーが後追いしてまねをすることが頻繁に見られた。競争が激化するようになり、ライバル陣営も異なる切り口で差異化するようになってきた。
これまでスマートフォン市場で一人勝ちを続けていたiPhoneも、最近はアンドロイドに追い上げられつつあった。
アップルは他社にあって、自社にないものをつぶしていく必要に迫られていた。iOS5になることでパソコンがなくても使えるようになり、通知機能やSNS連携も強化された。
今回、他社の「いいとこ取り」をしたことで、ライバルに対しての「穴」をきっちりと埋められたように思う。他社がアップルに追いつこうとしている中、iOS5が着実に競争力をつけたことで、またも他のプラットフォームを一気に引き離したようにも感じられる。
アップルはOS、端末、サービスのすべてを1社で手がける垂直統合型を極めており、それらの連携がずば抜けている。この点が、水平分業で攻める他社にはなかなかまねができないところだろう。
まさに今回のバージョンアップは、ジョブズCEOが「iPhoneには、ほかのスマートフォンと比べて見劣りする点がひとつもない」と言いそうな進化だ。
「iOS5」の投入時期について、アップルは「今秋」という。新しいOSが出るのと同じタイミングで新製品が発売されてきただけに、iPhoneの新モデルもそのころに登場するだろう。
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