2011年6月7日火曜日

iOS 5+iCloudで大きな変貌を遂げるiPad、iPhone、iPod touch

 米Appleが6月6日(現地時間)、開発者向けの年次会議「World Wide Developer Conference 2011(WWDC2011)」の基調講演で、iPhone、iPad、iPod touch向けの次期OS、「iOS 5」の新機能を披露した。iOS 5では、1500以上の新しいAPIが開発者向けに提供され、エンドユーザーにも200の新機能が用意されているという。iOS 5の配信は今秋の予定で、対応機種はiPhone 3GS/iPhone 4、iPad/iPad 2、iPod touch 第3世代/iPod touch 第4世代。開発者向けのSDK(ソフトウェア開発キット)は6月6日から提供が始まっている。

 世界で2億台以上が販売されたiOSデバイス用に開発されている、次期メジャーアップデート版のOSはどのような機能を持つのか。CEOのスティーブ・ジョブズ氏も登壇した基調講演で紹介された10の機能を簡単に紹介しよう。

「Notification Center」の新設
 iOS 5に搭載予定の多数の新機能のうちの1つが通知(Notification)機能の強化だ。これまで、iOS対応アプリでは、個々のアプリのアイコンにバッジを表示したり、画面上にウィンドウをポップアップさせたりして各種通知を行っていたが、これを1カ所にまとめ、見やすさとわかりやすさを向上させたのがNotification Centerだ。iOS 5では、ゲーム中などに画面中央にメッセージが表示されるようなことはなく、すべてのメッセージが画面上部に小さく表示され、Notification Centerに蓄積されていく。

 Notification Centerを開くには、画面上部のステータスバーのあたりから指を下向きにスワイプするだけでいい。すると画面にはどのアプリに対してどのような通知が行われているかが一覧表示される。ここでメッセージを消去することもできるし、該当するアプリを開くこともできる。ロック画面(待受画面)に表示されるNotification Centerからは、電話やメール機能に直接ジャンプする機能も用意した。

Notification Centerは、これまでアプリごとにバッジで表示されていたNotificationなどをまとめて閲覧できる機能。利用中のアプリの画面などを邪魔しない仕様になっている

「Newsstand」機能
 「Newsstand」もiOS 5で新たに追加される機能の1つ。日本での展開がどうなるかはまだ不透明な部分もあるが、米国では雑誌や新聞の定期購読ができるサービスとして提供される。定期購読紙・誌の最新号は、プッシュ式で自動配信されるので、最新刊が刊行された場合に買い逃す心配がないのが特長だ。データはあらかじめ端末にダウンロードされるので、コンテンツを楽しむ際に通信環境がなくても心配はない。

TwitterをOSに標準搭載
 日本でも多くのユーザーがいるTwitterのサービスは、iOS 5になるとOSの標準機能として取り込まれる。すでに写真をTwitterに投稿するアプリなどは存在しているが、OSの標準機能として取り込むことで、いつでもどこでもiOSアプリからTwitter投稿機能が簡単に利用可能になる。一度サインインしておけば、Safariや写真、カメラ、YouTube、マップなどから簡単に情報をツイートできる。

 さらに、Twitterのユーザー名やプロフィール写真などを、連絡先のデータに反映することができるという。連絡先にTwitterアカウントが登録されていると、文字入力時にiOS 5が変換候補の中にアカウント名を含めてくれるので、すべての文字を打たなくてもアカウント名が入力できるといった細かな魅力もある。他のアプリで作成したツイートに位置情報を付加して投稿することも容易だという。

Safariの強化
 iOS 5では、Webブラウザの「Safari」の機能強化も行う。情報が多く見にくいWebサイトをすっきりした状態で表示する「Reader」モードを新たに搭載。また気になる情報を手軽にクリッピングしておき、後でまとめて読むときなどに便利な「Reading List」機能も備える。後述する「iCloud」と組み合わせれば、iPhoneで作ったReading ListをiPadで閲覧する、といった使い方もできる。

 iPadでは、Safariでタブが表示されるようになるため、ページの切り替えが簡単になる。もちろんSafariそのものの性能向上も図り、レンダリング速度やJava Scriptなどの実行速度も向上する。

「Reminders」機能の搭載
 やらなくてはいけないこと、忘れてはいけないことをしっかりとメモしておき、必要なときには通知してくれるToDo機能を提供するのが「Reminders」だ。これもiOS 5の標準機能として提供される。リマインド機能は日付だけでなく場所での指定もできるため、スーパーに行ったら「卵と牛乳を買って帰る」というアラートを出せる。RemindersはiCalやOutlook、そしてiCloudと連携できるので、他のデバイスで設定したRemindersのアラートを、外出時にiPhoneで表示させることも可能だ。

カメラの使い勝手向上、編集機能を提供
 カメラ機能は、これまでカメラアプリを起動しないと撮影できなかった(一時期はホームボタンのダブルクリックにカメラ起動を割り当てることができたものの、最近はできなくなっていた)が、iOS 5ではロック画面からいきなりカメラを立ち上げられるようになる。とっさのシャッターチャンスにも強くなる点は特筆に値する。

 ロック画面には、カメラアイコンが用意され、このアイコンをタップするとパスコードを入力せずとも写真が撮れる。端末内に保存した写真はこの状態では閲覧できないが、とにかくすぐ写真や動画が撮りたいときに便利だ。

 また画面上にグリッド(構図を決める際に便利な縦と横の線)が表示可能になっており、水平や垂直、黄金比の構図などが簡単に合わせられる。ズーム操作にピンチイン/ピンチアウトが使え、より直感的になるのもポイントだ。画面上をロングタッチするとその場所にフォーカスと露出を合わせて固定できるAF/AEロックも搭載する。

 このほかボリュームの「+」ボタンをシャッターキーが割にする機能も用意。画面をタッチするのではなく、物理的なシャッターキーが欲しかった人に朗報だ。iCloudとの連携機能もあり、撮った写真を即座にサーバにアップし、他のデバイスでも好きなときに写真を閲覧できる。

カメラはロック画面から瞬時に起動可能になる。パスコードを入力しなくても写真が撮れる。またボリュームの「+」ボタンをシャッターにする機能も用意される

 iPhone上で簡単な写真の編集も可能になる。トリミングや回転、露出の調整や赤目の軽減など、気になった部分は写真の閲覧中に編集できてしまう。

メール機能の強化
 メール機能はこれまで以上に多彩な表現が可能になる。文字をボールドやイタリックに装飾したり、下線付きにしたりといった装飾を加えるリッチテキストをサポート。本文の一部をインデントするようなこともできる。

 またメールには個別にフラグを指定したり、アドレスのToとCcをドラッグ得入れ替えたりといった便利な機能も提供。メール本文の検索機能も利用可能になる。S/MIMEもサポートした。me.comのドメインのiCloudサービス用メールアドレスも無料で取得できる。

 また文字入力中などに便利な辞書も、iOS 5でOSの機能として搭載されている。分からない単語があった場合などに、範囲選択をしてその場で辞書を調べられる。この機能はメール以外にもiOS対応アプリから利用できるという。

 iPadのような大型のデバイスを両手で持った場合に打ちやすい、親指打ち用のコンパクトなソフトウェアキーボードが新たに搭載されたこともポイントだ。

MacやPCが不要に
 iOS搭載デバイスは、購入後まず最初にMacやPCと接続してアクティベーションを行う必要があったが、iOS 5からはこうした"MacやPcとの接続"が不要になる。箱を開けたらデバイス単体で初期設定とアクティベーションが行えるのだ。

 OSのアップデートも、OTA(Over the Air)で行えるようになる。つまりMacやPCに接続することなく、iOSデバイスの機能を最新にできる。OSは差分アップデートで更新するため、これまでのように100Mバイト超のファイルをダウンロードする必要もなくなるという。

 これに合わせて、カレンダーの作成と削除もiOSから可能になる。MacやPCのiTunesと同期する必要がある場合でも、Wi-Fi経由での同期をサポートするため、Dockケーブルがなくても必要なデータのやりとりができる。

ついにiPadやiPhone、iPod touchがMacやPCに接続せずともアクティべーション可能になる。Appleは「PC Free」と表現した
ソフトウェアアップデートはケーブル接続をせずに実行可能に。OSのアップデートは差分アップデートになるため、ダウンロードしなくてはならないファイルのサイズも小さくなるという

Game Centerの拡張
 ネットワークを介してさまざまなユーザーと交流したり、対戦したりできるGame Centerは、iOS 5でさらにその機能が拡張される。現状5000万人以上いるというGame Centerユーザー同士の交流を促進すべく、友達だけでなく友達の友達のスコアが見られるようになったり、友達のレコメンドする機能を備えたりする。Game Center内で、App Storeに移行することなくゲームタイトルがダウンロードできる機能も提供する。

iOSデバイス間の新たなコミュニケーション手段「iMessage」
 iPhoneのSMS/MMS機能で実現している吹き出しのグラフィックが特徴的なメッセージングサービスを、iPadやiPod touchでも実現するのが「iMessage」だ。3G回線がなくても簡単なメッセージのやりとりや写真・動画の送受信など、MMSサービスのように利用できる。

 配達確認や開封確認の機能もあり、Eメールのように使えるのかと思いきや、相手が文字入力中には画面にその旨が表示されるなど、インスタントメッセンジャー的な使い方も想定しているようだ。

そのほかにも機能が盛りだくさん
 以上10個の項目をざっと紹介したが、そのほかにもいくつかiOS 5の新機能が紹介されている。1つはiPadでのマルチタスク時の新たなジェスチャーだ。4本か5本の指で画面を下から上にスワイプするとマルチタスクのバーが呼び出せ、同様に4〜5本の指で画面を左右にスワイプするとタスクの切り替えが行える。また画面をピンチするとホーム画面に戻る機能も搭載する。

 もう1つはiPadの画面をHDMIではなくAirPlay経由でiPad 2の画面をテレビに出力できる「AirPlay Mirroring for iPad 2」。専用ケーブルなしで、AppleTVがあればiPad 2の画面をテレビ出力できるので、プレゼンテーションや家族で写真や映画などを楽しむ際に重宝しそうだ。

 単体でさまざまな機能が利用可能になり、Android搭載スマートフォンをにらんだ使い勝手や利便性の向上が図られるiOS 5。このバージョンアップにともなって、iPhoneやiPadのようなデバイスは、さらにユーザーのすそ野を広げることになりそうだ。

 この"脱Mac""脱PC"の流れの中で、iOSデバイスの使い勝手をさらに快適にしていくのが、Appleの提供するクラウドサービス「iCloud」だ。iOS 5の新機能の多くはiCloudとの連携により利便性が向上する仕組みになっている。

「iCloud」サービスとは

 iCloudは、Appleが提供する新しいクラウドサービスだ。メールや文書ファイル、データのバックアップなどに使える5Gバイトまでのストレージスペースと、写真や音楽データの同期サービスが利用できる。iOS 5のリリースと同時にサービスを開始予定で、ほとんどのサービスは無料で提供される。

 既存の「MobileMe」ですでに提供しているメールサービスなども融合したもので、基本的には今までMacやPCと同期して保存していたデータや設定値の多くをネットワーク上のサーバで預かりつつ、複数あるiOSデバイス間ではデータの自動同期を行うものだ。ただMobileMeサービスは「最初から作り直した」としており、サービスの内容は大きく変わる見込み。

 App StoreやiBookstoreで購入したアプリやコンテンツは、すべてiCloudのサーバに記録される。iCloud導入後は、同じApple IDを登録した最大10台までのデバイスで同じアプリやコンテンツが利用可能になる。

 このiCloudサービスは、iOS対応デバイスを複数持っているユーザーにはメリットが大きく、例えばiPhone 4とiPad 2を使っている人の場合、iPhone 4で購入したアプリがiPad 2にも入れられる、iPad 2で途中まで作成したKeynoteのファイルをiPhone 4で呼び出して移動中に仕上げる、といったことが簡単にできる。

 このiOSデバイス内の各種データをiCloud上に預かる「iCloud Backup」では、メールの既読・未読情報はすべて同期されるほか、PagesやNumbers、Keynoteなどで作成したオフィス文書もバックアップしたうえで同期する。開発者向けに提供されるiCloud Storage APIを利用すれば、iCloudにファイルを保存するアプリも作成可能だ。

 写真のデータは、「Photo Stream」機能により、iOS搭載デバイス間で同期させることができる。iPhone 4で撮影した写真をiPad 2で閲覧する、といったことが容易に行えるようになる。写真のデータは通常のiCloudのストレージエリアとは別の領域を利用し、デバイス側には最新の1000枚を同期し、iCloud側では最長30日間写真を保存する。

 また、長らくうわさになっていたiTunesのクラウド化も、iCloudにより一部実現される。「iTunes on iCloud」という名のこのサービスは、iTunes Storeで過去に購入した楽曲が、同じApple IDを持つiOSデバイスにダウンロード可能になる。

 なお、ユーザーがリッピングした楽曲の場合は、iTunes on iCloudは利用できない。この場合はiCloud Backupを利用してバックアップする必要がある。米国では、「iTunes Match」というサービスが提供予定で、これを利用することで、さまざまなiOSデバイスで楽曲が共有可能だ。iTunes Matchを利用すると、iTunes Store内に手持ちのCDからリッピングした楽曲と同じ曲があった場合、年額24.99ドルで、iTunesから購入したものと同じデータが手に入り、iTunesで購入した楽曲データと同じように複数のiOSデバイスで同期ができる。データはDRMフリーの256Kbps AACファイルとなる。

 異例の「予告」をしたうえで、盛りだくさんの発表が行われたWWDC 2011。今回の発表を受けて、どのようなアプリが生まれるのか。そしてiOS 5が登場するとき、新しい端末は出るのか。2011年秋に向けて、大きく期待が膨らみそうだ。

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